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日記兼二次小説スペースです。 あと、時々読んだ本や歌の感想などなど。 初めての方は、カテゴリーの”初めての人へ”をお読みください。
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典型的なB型人間。
会社では何故かA型と言われますが、私生活では完全なB型と言われます。
熱中すると語りたくなってしょうがない。
関西在住、性格も大阪人より。
TVに突っ込みを入れるのは止めたい今日この頃。
趣味は邦楽を愛する。お気に入り喫茶店開拓
一人が好きな割りに、時折凄く寂しがりやです。
字書き歴7年近く。
インテリ好きですが、私は馬鹿です。
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コレでラストです。
やっと終わった・・・・という感想が一番に出てきた。





























守りたいと思った。初めて自分の手に抱えた重みは、驚くほど暖かいもので、生きていていいのだと思わせてくれた。自分に向けて笑ってくれたとき、自分はこの世に存在しているのだと実感した。
だから、そのぬくもりも笑顔も何もかもを忘れても、忘れない。消えたりしない。許された喜びや幸福は、消えたりはしないから。

約束しよう。





君世の神 肆






「はぁ・・・はぁはっ・・・はぁ。」

何度も転び、銀時の膝や腕は血と土で酷いものだったが、今の銀時にとっては、それはさしたる痛みではない。それ以上に身体を這う痛みの方が酷い。社に近づけば近づくほどに、痛みは酷くなるばかりだ。それでも山道を駆け、壊れた石畳を上がると、銀時はすぐさま拝殿の扉を開けた。

「新八!!」

中は薄暗かった。周りの木々であまり日が入ってこない。それでも今の新八の姿が尋常ではないことは、後姿でもすぐに分かった。淡くなる輪郭。まるでこの世の者ではないように、その身体が薄らいでいるのだ。そんな小さな身体をさらに縮めるように、ぎゅっと腕を抱いている。

「しんぱ・・!!!」

すぐに駆け寄ろうとした。しかし、銀時の身体は、そのまま音を立てて床へと倒れこんだ。全身から骨が抜き取られてしまったかのように、身動きすら取れなかった。痛みにのたうちながらも、顔を上げると、新八が見えた。尻尾が緊張にピンと立ちぶるぶると身体ごと震えている。それでも新八はけしてこちらを見ようとはしなかった。

「新八、なぁこっち来てく・・れょ。」

銀時が手を伸ばすが、まったく届かない。新八も振り返らない。小さく首を横に振るばかりだ。身体の痛みで、次第に意識が朦朧としていく。焦れそうになる気持ちを銀時は、必死に抑えた。

時間がなかった。理屈ではない。感覚で分かる。銀時は、自分の中から新八の存在が消えていくのを感じていた。声を聞いた瞬間から、出会ってから二週間ほど記憶が、序々に消えて行っている。まるで砂山が崩れていくように。それと連動するように、新八の姿も捉えずらくなっていく。銀時はその頑なな背に懸命に手を伸ばした。
たとえ消えてしまうと分かっていても、もう一度その手に触れたかった。

「でも、もうわかってるんでしょ銀時。
 銀時は、僕を忘れるんだ。
 忘れなきゃいけないんだ。
 そういう縁だったんだ、本当は!!
 銀時が、ちゃんと幸せになるためには、それがいいんだ。
 ちゃんと大丈夫だって分かってもらうための縁だったから。」

「新八・・・。」

「僕、気付いててたんだ、どっかで分かってた。
 銀時が帰っちゃうと凄く寂しくて、でも絶対そうしなきゃいけないって思ってた。
 なんでかわかんないけど、銀時は帰らなきゃいけないって。
 どうしてかわかんないけど、傍にいてほしいのに、それは駄目ってわかっちゃって。
 だから銀時は、銀時の世界で生きていくんだって、離れちゃうって分かってて。
 だから寂しくて、銀時の器だったらずっと一緒にいられるかなって思ったりして。
 でも・・・でも・・・僕だって、僕だって、銀時だから、傍にいたくて・・・・。」

信じてほしい。そんな願いの篭った声を聞く。あの時、新八が言わなかった真意を、初めて銀時は知った。一人でいることの辛さは、銀時も知っている。互いの世界が違うことも、知っていた。いつまで傍にいられるのかも分からなかった。分かっていながら銀時は、新八を独り占めすることばかり考えていた。その結果、新八を一人きりにしていたのに。それでも新八は、銀時のことを思い、いつも家に帰るようにと言ってくれていたのだ。

守るつもりだった。守れると思っていた。なのに実際は、守られていた。

「ごめん・・ごめんねぇぎんときぃ。」

背中を向けて泣く新八の肩が、えづく度にひくつく。小さな肩だった。だが自分は、そんな小さな者に守られていたのだと銀時は知った。だからもういいと思えた。もう充分だと。

「怒ってねぇよ、俺。」

耳がぴくりと立った。こちらの声は届いている。今しかないと思った。

「新八、俺なお前に会えてよかった。
 こうなるってわかってたって、会えてよかった。
 なぁ、もう無理なんだろう。
 俺、お前を忘れちまうんだよな。
 だから最後に、もう一度ちゃんと顔見せてくれよ。」

もう、殆ど記憶の大半が消えた。どうやって出会い、何を話したのか分からない。それでも諦めるわけにはいかなかった。諦めてしまえば、何も伝えることが出来なくなってしまう。銀時は歯を食いしばり、何度も心のうちで、名前を呼んで呼んで、呼び続けた。這いずるようにボロボロの床を這う。

忘れたくない。せめてあと少しだけでも。痛みが、神が、この思いを拒んでも、新八に触れたい。

「でもぉ・・・銀時が痛いの。」

「いいから。
 痛くてもいいから。」

「でもぉ・・ぉ。」

「新八、新八、新八、頼む・・・。」

「でぉ・・・・もぅ・・・。」

どれだけ呼んでも、新八は来ない。もう限界だった。時間がない。新八の姿はもう、薄っすらと陽炎のようにしか見えない。拳を握り、床に叩いた。力の足りなさが不甲斐なくて涙があふれた。

「来いよ!!」

「だめぇ・・。」

「いいから、来い!!」

もう新八の意思など、銀時にはどうでもよかった。理由なんて何でもいい。触れたい。それだけだ。

「俺が新八って呼んでやれるうちに来いぃ!!」

「ぎんときぃいい!!」

振り返った新八の顔は、もう涙でぐしゃぐしゃだった。飛びつくように、銀時の元へ。
その勢いのまま銀時に触れようとする。しかし触れてもいないのに、途端に銀時の身体は中から裂かれたように痛んだ。

「あぁっつぁあ・・ご、ごめん。
 銀時、銀時、ぎんとき!!」

戦慄く口が恐れに惑い、小さな手が逃げる。銀時の傍でへたり込み、泣きじゃくっている。銀時は痛みをやり過ごしながら、その手を伸ばした。精一杯伸ばし、ゆっくりと新八の頬を撫でた。

「しんぱち・・・。
 ありがとうな、ほんとに・・・。」

痛みで震える身体で銀時は言った。何をと言われても、もう何も分からなかった。何に感謝すべきなのかさえ覚えていない。それでも言わずにいられなかった。
全部消えた。結ばれた縁。交わった縁。それらが、切れて消える。あるべき姿に戻ろうとしているようだった。それでも銀時の中に残っているものがある。大切にしたかったことも、守りたかったことも。消えてなどいない。心の形は、もう変わって戻ることはない。

「守ってやれなくて・・・ごめんな。」

本当は、これからもずっとずっと、守ってやりたかった。傍にいたい。しかしもうそれは叶わない。それだけが、心残りだっが。でも不思議と不安はない。きっと大丈夫だと思う。切れて消えた縁があるべき形に戻るのなら、その先は無ではないはず。生きているから、きっとそれは繋がっている。

「ううん。
 僕こそ、ありがとう。
 銀時と一緒に居られて凄く、楽しかったよ。」

新八は必死に笑顔を作り、銀時の手を握った。不思議と痛みの峠が越えた。もう痛みさえ届かないほど、意識が朦朧としている。柔らかい手の感触に、ほっと息を吐く。これさえ忘れなければいけないのかと思うと惜しくて仕方がない。

「もう一度、会いたい。」

新八が言った。今まで何かを強請ってくることなどなかった新八が、初めて銀時に言った。閉じそうになる瞼を薄っすらと開け、子供の顔を見た。もう銀時には、目の前にいる新八が、誰なのかもわからなかった。ただ、それでも胸の奥で燻る想いは同じだった。

「おれも、あいたい。」

感情なく、そう言った。声に感情が入らなくなっていた。その分を補うように、新八は銀時の手を両手で強く握った。

「じゃあ、僕はこれから銀時を探すよ。
 銀時の器を絶対に見つける。
 だから、銀時も僕の魂を、人の世の僕を探して。」

「たまぁ・・しぃ、さが・・ぅ。」

「うん、僕の魂を持った人間が、この世界にいるから。
 そしたら、身体が役目を終わったとき、会える。
 それまでに、絶対僕は銀時の器を見つけるから!!」

新八の声が急く。いつの間にか、銀時の視界は閉ざされていた。手の感覚もない。ぬくもりも消えた。ただ頭の中で反響する声だけが、銀時の意識に届いた。その声さえも次第に遠くなっていく。

「みつ、ける。」

「ぜったいだよ。
 ぼ・・もみつ・るか。
 や・・そく・・・ぎん・・と・ぃ・・・」

ぶつぶつと途切れる声もやがて、消える。銀時はまどろみの中に、意識を落とした。記憶も痛みも熱も何もかもが消えて、銀時は胸の奥には一つの空洞が出来ていた。







「・・とき・・・銀時。」

瞼の裏に灯りを感じた。覚醒していく意識の中で知った声を聞いた。

「銀時!!」

「・・・ぅぉ!!
 いってぇ・・。」

瞼を上げると、視界一杯に晋助と小太郎の顔があり、銀時の身体が驚きに跳ねた。つられて背中が痛んだ。

「当たり前だ、馬鹿。
 こんな所で寝ていれば身体も痛むさ。
 まったく、必ず帰るといっておきなら、こんなところで寝ているとは。」

こんなところと言われて、銀時は身体を起し、辺りを見た。そこは土の上だった。山を削って土をならしたそこは、少々の広さがあったが、あたりには何もなかった。違和感を感じるが、それが何なのかは、銀時には分からなかった。自分は何故こんなところにいるのか。眠っていたという小太郎の言葉だが、眠る前の記憶を探ってもまったくなかった。

「で、お前のとっておきとやらは、如何したよ。」

「へっ?」

晋助の言葉に、銀時は目を丸くした。

「お前のことだ。
 どっかの犬猫なんじゃねぇのか?」

「俺は犬でも猫でもどちらでも構わんぞ。
 村のは大体モフモフしつくしたからな。」

「馬鹿ヅラ。
 てめぇの肉球好きも大概にしやがれ。
 こいつの取っておきにも、逃げられちまうぞ。
 で、そいつは?」

二人はきょろきょろと辺りを見回す。だがそれらしい姿が見えないからか、最後は銀時に視線を戻してきた。しかし、銀時はどう言うべきか迷った。
確かに二人や塾の者に、大事な何かを合わせると、銀時は言っていた。それは間違いない。しっかりと覚えている。しかし、その者が何だったかのを、銀時は覚えていなかった。確かにその者が居た感覚はある。だがその者の顔も名前も姿もなにもかもが思い出そうとしても出てこない。
その反面、不思議と未練がなかった。とても大事だと想っていただろうに、記憶と共に不安や未練なども消えたかのようだった。だからこそ、銀時は悟った。

「逃げられちまった。」

「「何ぃいい??」」

二人が食いつかんばかりの勢いで、銀時に詰め寄った。

「たぶんな。」

「た・・多分って。」

「いいのか、銀時。
 大事だったんだろう。」

小太郎の問いに、胸の奥を探る。そこには確かに、空洞があった。ぽっかりと空いた穴には、誰かがそこに居たような感覚が残っており、今は寂しさや物足りなさが入っている。それでも、銀時は曖昧に笑った。

「いいさぁ、大丈夫だろう。
 多分、また会うよ。
 縁があればな。」

本当に会うべき人なら、きっと出会う。そう思えた。
銀時の様子に二人は顔を見合わせたが、当人が納得している以上は、と何も言わなかった。

「そんじゃ、帰るか。」

「そうだ、先生が塾で待っておられる。
 早く帰るぞ。」

「おう」

銀時が立ち上がると、二人も釣られるように立ち上がった。そして歩き出した二人の後姿についていくように、銀時は慣れた足取りで山を降りていく。土の道から草を縫うような細道に分け入り、木々を抜ける。そして帰りを急で川を飛び越えた瞬間。

「えっつ・・・。」

銀時は着地すると、咄嗟に足を止めて振り返った。後ろを見るが、何もありはしない。木々と細い道が広がるばかりだ。風に木々がざわつく。一瞬空気がぶれるような感覚があったが、それはあっさりと消えた。不思議に思いながらも、銀時は先ほどまで自分が寝ていた場所を見た。何か足りないと思う。しかし。

「何やってる銀時!!
 置いてくぞ!!」

「おぉ!!」

晋助の声に応え、銀時は後ろ髪を引かれながらも、歩き出した。銀時が歩き出したのを確認して、二人もまた先導して歩く。その二つの背中を見ながら、後ろ髪を断ち切った。大事にしたい、守りたいものならばもう目の前にあるのだから、とは流石に今の銀時でもいえなかった。







これが二人の出会い。
消えた縁に代わって結ばれた約束が果たされるのは、これからまだ十数年の時間を要する。松陽の死。師の意思を受け継いでの攘夷戦争参戦。そして仲間の死を経て、銀時はそれでも生き続ける。新八と会う。その縁に生かされることとなる。
そして、その境目を埋めるように、もう一つの縁が結ばれていくことは、まだこのときは誰も知らなかった。











「あっ・・・あねぅえぇ・・・。」

小さな子供が、姉を呼びながら、社の中を歩きまわっていた。渡り廊下を越え辿りついた拝殿の縁側は、冷たい風が吹き付けて子供を冷やす。だが子供は見知らぬ場所の心細さから、姉を探し続けていた。祭事の為の準備に追われる大人たちは、皆裏で準備に追われて出払っている。その為子供を見つけたのは、この神社の先代の宮司だった。

「ぉお、新八君。
 ココにおったか。
 探したぞ。」

「宮司さまぁ。」

見知った顔を見た為に、新八と呼ばれた子供はいっそう激しく泣き始めた。ゆっくりとした足取りで、宮司の所へと歩み寄ってくる。宮司はそんな新八に苦笑いをもらしながらも、辿りついた新八を慰めるように頭を撫でる。宮司の袴をぎゅっと握り、新八は離れようとはしない。

「ほれほれ、そんなに泣いておっては、目が溶けてしまいそうではないか。」

「だっ・・・てぇええ、あでぇうぇ・・・。」

宮司はしゃがみ込み、新八の頬の涙を手で拭うが、拭う傍から涙はあふれて止まらない。祭事まで後数時間しかないが、今年の主役は、いまだ宮司の手を涙で濡らしていた。

この町の西の外れにあるこの神社では、毎年秋になると今年の豊穣を神に感謝するための祭事が開かれる。毎年選ばれた稚児が、今年に取れた米と神社の裏にある井戸で朝一の水を汲み、それを拝殿にある御神刀に捧げるのだ。その礼拝を2週間行い、最終日には縁日も開かれ、町中の人がこの神社に訪れる。子供らはその縁日の夜店を、大人はその時だけ見ることが出来る巫女舞を楽しみにしている。何より、十数年続いた攘夷戦争に、何処か世間は暗かった中で、人がにぎわう祭りはやはり市民のささやかな楽しみでもあった。
そして稚児には毎年、町の子供の中から選ばれる。選定基準は、袴着を済ませていない10歳以下の子供であることに加え、御神刀に触れることになるために、武家またはそれに順する家柄の男子としている。稚児に選ばれた子供は、礼拝の仕方を学んだ後、二週間の祭事中はこの社で寝泊りをすることになる。もちろん祭事の間は、神の子と扱われる為、家族には会うことも出来ない。新八が泣いているのは、その為だ。

「そんなに、姉上に会えんのが辛いか?」

宮司の問いに、新八は何度も頷いてみせる。まだ10歳にも満たない子供が親と離れるとなれば、泣きだすのは無理もない。しかし最近はこの年頃になると、意地張る子供も多く、家族の前では強がる者も多い。新八のように、始める前からこれほど泣き出す子供は、本当に久しぶりだった。
新八の姉である妙とは、宮司も何度も顔を合わせていた。礼拝の方法を学ぶときも、妙がついてきたためだ。それもそのはずで、新八は物心つく前に母を病気で亡くしており、父の手一つで育てられてきた。しかし父は道場の切り盛りと家事をしており、とても新八まで手は回り切れないことも多く、足りない部分を妙が補ってきたのだ。新八にとって、妙は、姉であると同時に母の役割を兼ねている。それを二週間も会えなくなるといわれれば、寂しくなるのも無理ない話だった。

「仕方ないのぉ。」

「ぅああ!!」

宮司は、新八の足から抱き上げた。急に高くなった視界に新八は慌てて、宮司の服をぎゅっと握った。
そしてそのまま歩き出し、誰もいない拝殿の中へと入る。開けた戸口からしか光がなく、中は薄暗い。しかし金糸で織り込まれた豪華な装飾や祭具が光に反射する。そして何より、祭壇の中央。光を集めていたのは、一つの銀。

「ひぃっ!!」

「初めて見るか。」

新八は脅えながら頷いた。かすかに宮司に身体を寄せる。それは祭壇に捧げられた一筋の光。鋭い切先。

「練習は模擬刀だったからなぁ。
 コレが、正真正銘のこの神社の御神体の刀だ。」

柄の先には、ご神体であることを示すように、紙垂が下がっている。しかし光を放つ刃は、神が宿るといわれても、幼い子供が感じるのは恐れ以外にはない。

「何も、恐がらんでええ。
 これは何も悪いことはせんよ。
コレは、守る為のものだ。」

その言葉に、新八の脅えが静かに引いていく。宮司の声は、温度を持っているかのように温かみがあり、ゆっくりと新八の中へと沈んでいく。身体の力が抜け、いつの間にか涙は止まっていた。

「この国はな、つい最近まで戦争をしておった。」

「せんそぅって?」

「戦争というのはな、誰かが誰かの大切な人を奪う。
 奪って奪われてを山のような数の人で繰り返す。
 そういうもんじゃ。」

「如何してそんなことをするんですか?」

新八の純粋な不思議そうな目が、宮司を見ていた。そのにあるのは、単純な疑問だった。怒りも悲しみも喜びもない。その目に何故と問われ、宮司は思う。

戦争。天人、幕府、政治、民、侍。それらが全て渦中に呑みこまれていった。混沌と混迷が渦巻いた十数年だったと思う。あの暗雲を縫うように現れた天人の黒い宇宙船を見た時は、宮司もこの世の終わりだとさえ思ったものだった。
しかし、今宮司は生きており、世界は終わらなかった。

「誰もが皆、守りたかった。」

「守っているのに、何で奪うんですか?」

「うん、たとえば新八君。
 新八君の家に、突然ゴリラがやってきたとしよう。
 力の強そうな、おおきなゴリラだ。
 それが突然家に入ってきて、新八君の大事な姉上を攫ってしまった。
 さぁ新八君はどうする?」

「僕の姉上とっちゃ嫌です!!」

まるで本当にそうされたかのように、新八は頭振った。

「そうだな。
 私たちの国では、そういわれている。
 人の物を取ってはいけない。
 誰かの大切な人を傷つけてはいけない、と。
 しかしゴリラの世界では、欲しいものは自分で取ってこないといけない。
 だってお店もなければ、お金もないからな。
 だからゴリラは水も食料もお嫁さんも自分で探して持ってくる。
 新八君にとっては”盗られた。”でも、ゴリラにとっては”持って来た”になる。
 わかるかい?」

「うん。」

「戦争って言うのは、そういうもんじゃよ。
 天人も、将軍も、お侍も、民も、皆自分の大切なものを守りたかった。
 奪われたくなかった。
 そのためには奪おうとする者を追い出さなくてはいけなかった。 
 一方では守りたいが為に、相手を受け入れた者も居た。
 だがやり方は違うが、根本はおおきな違いはない。」

守りたかったものは、人によって違った。大切な人、家族やその生活だったもの。逆に己の利益や権力の座と言うものもいた。だが皆がそれぞれの立ち位置で、守りたかった。

「皆が脅えた。
 今の新八君と同じように、自分の大切な人と離れるのが嫌でな。」

逃げた者、受け入れた者がどれほど多かったことだろう。誰かが何とかしてくれると思い、今目の前にある者を守るので精一杯だった。だが、そんな中にも居た。

「でもな、そんな中でも闘った者たちも居る。
 それが新八君たちと同じ侍だった。」

「さむらい。」

「彼らは、自分の大切なものの為、時には見知らぬ者の大切な人さえ奪われぬようにと闘った。
 自分が傷つくことさえ承知で。
 多くのおとなが逃げた中でも、彼らは逃げなかった。」

「さむらい・・逃げない・・・。」

幼い口が単語を繰り返す。真新しい言葉を覚えるように。

「刀はな、そんな侍の武器だ。
 使い方を誤れば、相手も自分も傷つくことになる。
 だが正しく使えば・・・。」

「まも・・れる?」

新八は答え合わせでもするかのように呟き、宮司はその答えに満足し、目を細めた。

「新八君は、大事な姉上を守れるような侍にりとうないか?」

「なりたいです。
 僕、お侍になって姉上を守りたいです!!
 それと、父上と友達とえっと・・・えっとい・・いっぱい!!」

「そうか。
 なら、泣いていては恐いゴリラが来ても分からんからな。
 我慢できるかな?」

「でき・・・る・・ように頑張ります!!」

出来るとは、まだ言い切れないでいるようだった。だが、それで良いと宮司は思う。泣くことが弱さなのではない。涙を知らない子供では、泣くことの苦しみを知らないおとなになるだろう。それでは、ただ奪うだけの者になってしまいかねない。
しかし今、小さな握りこぶしを作り、新八は大きな声で、守りたいとそう言った。キラキラとした小さな目は、大切な者を守らんと輝いている。そんな子供が、もっともっと増えてゆけばいいと思う。

「良し、ではそろそろ戻ろうか。
 みんな、新八君が来るのを待ってるからなぁ。」

「はい!!
 あっ、あの・・・僕、自分で歩きますから。」

そのまま抱きかかえて行こうとした宮司は、足を止めた。その声には新八の意気込みが感じられ、請われるまま、宮司は新八を床へとおろした。新八は、ペコリと頭を下げて、力強い足取りで歩き出し、部屋を出ていく。その小さな背中を見ながら、今年は無事に祭事を終えられそうだと宮司は安堵し、新八を追って、古い木の扉を閉めた。




光の閉じられた拝殿。電気も蝋も灯されていない部屋は、格子の隙間から少し入ってくる光だけが、唯一の光源だった。しかしその祭壇の中央。奉られた御神刀が、無人の中で鈍い光を浮かびあがらせた。
太陽の日差しではありえない青白い光。それは見る間に大きくなり御神刀の上に大きく立ち上った。そして揺らめく陽炎のようなその中でゆっくり人の姿が現れた。明らかに刀の上で立つように現れた男は、輪郭を作り終えると、閉じられていた瞼を開けた。

「よっと!!」

掛け声と供に、陽炎は男に吸収され、そのまま男は刀の上から高く飛び、先ほどまで宮司と新八が立っていた辺りへと着地した。白地に狩衣には、銀糸と金糸で鳳凰が描かれ、隙間からは薄紅の単が覗く。袴は深い紫黒。それは単の薄紅をかすかに引き立たせた。
明らかに上質の生地を身にまとった男だが、仕草は裏腹に粗野なものだった。外に跳ねる白髪をガリガリと乱雑に掻くと、次は身体を解すように、腕を高く上げ、息を吐ききると今度は腕をだらりと下ろす。そしてその口は、何処か不機嫌そうにへの字に曲げている。

「ったくあのジジィ。
 久しぶりに起きてみれば、いい加減なことばっか言って、あんなガキだまくらかしやがって。
 何考えてんだ、ったく。」

肩をまわし悪態を吐く。そのまま腰に手を当てて、しばらく男はなにやら思案しているらしかった。思い出していたのは、宮司と一緒に居た子供のこと。今年の稚児。それはすなわち、男の世話役を意味していた。

「なんか、今年のはえらく頼りねぇよなぁ。
 ちょっと様子でも見に行くか。」

そういって、男はため息を吐くと壁をスルリと抜けて、今年の相棒の姿を探し始めた。







コレがもう一つの縁。もう一つの出会い。
交わる縁は、まだ絡まったまま、もう一つの出会いを紡いでいく。




END

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