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日記兼二次小説スペースです。 あと、時々読んだ本や歌の感想などなど。 初めての方は、カテゴリーの”初めての人へ”をお読みください。
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一人が好きな割りに、時折凄く寂しがりやです。
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狐話その2です。

・・・・一応ね、狐の話なんです。
愚痴は、後書きはまとめてします。

























「銀時の器は、どんなんだろうね?」

「ぅん?またその話?」

子供は、じっとしていない。銀時に髪を梳いてもらっている新八は、振り返った。髪を梳くにしても何にしても、銀時といるときは、新八はじっとはしていない。そのたびに、銀時は新八の頭を掴み、ゆっくりと前を向かせている。新八も銀時が言わんとしていることが分かっているので、文句を言うわけでもない。

「どんな器なんだろうね。
 銀時の器。」

「さぁな。
 あんま興味ねぇし。」

新八の言葉に、銀時は気のない返事を返し、新八の髪を整える。コレが二人の日課だった。新八の髪は、銀時と違って真っ直ぐな黒髪で、癖の強い髪質の銀時は、新八の髪が羨ましくて仕方なく、ここにくるとまず新八の髪を梳かしつけるようになった。黄金色と白の耳の毛を梳かし、敏感な尻尾は丁寧に引っかからないようにして櫛を通し、髪は最後の仕上げだ。耳を避けるようにして丁寧に、痛みのないようにと心がける。

「だって、銀時の器だよ。
 器と魂は一つだから、きっと銀時そっくりなんだろうね。」

わくわくとした口調で話す。ふらふらと揺れる頭に手を添えて、しばらくは梳かしつけていた銀時だったが、あまりにも楽しげな様子に、銀時は櫛を床に置いた。そして、そのまま小さな身体を抱きすくめた。

「どっどうしたの?」

整えたばかりの頭に、銀時は顔を埋める。新八は頭をもぞもぞと動かすが、イヤだからと言うよりも、くすぐったげな様子だったのをいいことに、銀時はその手を放さなかった。何より銀時は新八に好かれているという自信があった。新八は嘘をつけるだけの器用さも狡さもない。だからこそ今、目の前で向けられる好意を、そのまま信じればいい。疑うことの辛さを味わってきた銀時にとって、新八は居心地の良い存在であった。
しかしだからこそ、新八の心が、別の場所へと向くのを、見過ごすことは出来なかった。そのためになら、卑怯な手を使うことも厭わないぐらいに。

「俺じゃ不満?」

「えっつ?」

「新八には俺がいるだろう。
 新八は、人間じゃいやか?
 俺が新八が好きなのに?
 俺が新八を大好きなだけじゃ物足りねぇの?」

「ちっ、ちがうよ!!」

新八に他意がないことも、違うということも、銀時には分かっていた。馬鹿なことを言っていると自分でも思う。しかし分かっていながら、銀時は新八を追い詰めた。疑われること。疑うことの辛さを分かっていながら、銀時は新八を試した。
抱きしめていた腕を解くと、新八はすぐに銀時へと振り返る。見上げてくる視線は、まるで銀時を脅えているかのようにも、受け取れた。それに胸を痛めながらも、何処かで安堵する自分を感じる。

「ねぇ、銀時。」

「じゃあ何で、そんな奴の話すんの?
 会いたいんだろ、俺がいんのに。
 どっかにいる器が、いいんだ、新八は。」

語尾が強くなっていた。新八の口がもごもごと、だって、と繰り返す。しかしその後はけして続かなかった。銀時の突き放した態度に、新八は完全に萎縮していた。それでも銀時は態度を緩めなかった。背を向けて拒絶を示すと、背中越しに途方にくれたような悲しみを感じた。
こんなとき銀時は、新八に甘えている自分を感じる。普段どれだけ銀時が世話を焼き、心を砕いているとしても、結局は新八が自分に向けてくる好意に甘えてしまう。

「ぎ・・・ぎんときぃ・・・。
 ごめん、もういわないから、ねぇ?」

もう涙交じりの声が、銀時を呼ぶ。縋るような声が謝罪を口にし、服の裾をかすかに引いた。脅えるような視線を申し訳なく思いながらも、その反面溜飲を下げていた。
嫉妬としか言いようがないだろう。まして相手は銀時その者と言ってもいい、銀時の器だ。しかし銀時にとっては、見たことも話したこともないのであれば、もはや他人と大差ない。むしろ自分に近しいだけに、新八を取られてしまうことへの危機感の方が強い。

銀時にとって、新八がかけがえなく、大切であるからこそ。
そんな免罪符を、掲げたくなるほどに。

「新八。」

銀時が振り返ると、新八は今にも零れ落ちそうな涙を瞳にとどめていた。新八が十二分に分かっただろうと思った銀時は、掴む手が落ちないように注意しながら、反対側の手で、新八の前髪を掻き分ける。そっと触れる唇。

「俺でいいだろう。」

「ぎぃんときぃいいい!!」

新八は、飛びつくように銀時の首にすがり付いてきた。涙がぼとぼとと零れ、せっかくの可愛い顔は、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっている。だがそれさえも可愛いと銀時は思う。わんわんと泣きながら、謝罪を繰り返す新八の頭ごと抱えて何度もなでる。
大事だ大切だと思いながらも、新八を泣かせてしまった。もう一人の自分に嫉妬して、疑うこと、疑われることのの辛さを知りながらも、新八を疑った。新八を思えば思うほどに、銀時は今までに味わったことのない感情を知っていった。喜びも愛しさも、憎らしさも醜ささえ。それでも今の銀時は、絶望することはない。生きていたいと思うことが出来た。新八が傍にいてくれるなら。







君世の神 弐







「勝負しろ。
 俺が勝ったら、お前はここを出て行け。」

午前中の稽古を終え、松陽が出て行ってすぐのことだった。着替えて早く新八のところへと思っていた矢先、銀時は晋助にそう声をかけられた。周りの子供らも共犯らしく、嫌悪と好奇心の混じったような目が銀時へと向けられていた。値踏みするようなそれは、銀時の苛立ちに強く触れた。

「お前が勝てば、俺らはもう一切お前には干渉もしない。
 お前が先生に迷惑をかけようが、何をしようがな。
 だが、俺が勝ったら、お前にはココから出て行ってもらう。」

晋助が放り投げた竹刀を受け止める。つまり互いに正々堂々一本勝負で、後腐れなく全てを片す。だがこの勝負銀時が得るものは少ない。元々晋助らに大した興味もなかった銀時にとって、妬みに睨まれようと、気になるものではない。負ければココを出て行くことになる。
しかし。

「いいぜ。
 受けてやるよ。」

銀時が手に取った竹刀を振った。ブゥンと空気のぶれる音がする。辺りに満ちた嫌悪や好奇そして期待の空気を切り払った。
勝負を受けた理由がなんだったのか。銀時は分からなかった。売られた喧嘩だったことも、苛立ちも理由には充分だ。しかしある意味晋助の目に挑発させられたともいえる。そして晋助を挑発したのも、自分自身だという自覚もあった。
道場の中央へと進む。回りの子供らは、銀時と晋助を避け、境界線の外へと出た。中央線、神棚の正面に右を銀時、左を晋助が立つ。

「防具は?」

「いらねぇ。」

小太郎の問いに、そっけなく答えた。銀時は、早く新八の元へいきたかった。しかしそれは難しいだろうことも分かっている。普段の晋助と銀時の試合は、常に勝敗は五分五分。
さらに言えば、剣を持ったときの二人の質は、よく似ていた。型にとらわれず、体力的にも恵まれている。身体が成長すれば、持久戦も可能になるだろうと松陽は言った。しかし二人は揃って結果を急くという欠点までが同じだった。二人に違いがあるとすれば、足技を使い、相手の調子を崩す銀時と違い、晋助は早さにおいては銀時よりも優れており、一足飛びで相手の懐に入ることを得意とする。

「一本勝負。審判は俺、桂小太郎が執り行う。
 礼。」

視線をそらすことなく、礼をすると竹刀を構える。正眼から真っ直ぐに、相手を見る。静まり返った道場内に、緊張感が満ちた瞬間。スッと真っ直ぐに上がる小太郎の手。ぴたりと止まった瞬間、緊張というギリギリまで引き絞られた糸が銀時と晋助の間を繋ぐ。そして。

「始め!!」

小太郎の手が振り下ろされ、それを切った。動く、と誰もが固唾を呑んで見ていた。だが一同の予想ははずれる。銀時も晋助も一歩も動こうとはしなかった。互いにじっと見ては正眼の構えのまま竹刀は微動だにしない。
普段の二人であれば、先手必勝とばかりに互いに向かいって行く。だが二人は互いに動けば取られることを察していた。
外では木枯らしが吹き、二人を急かしているようだった。しかし機は動く。動かしたのは、銀時だった。

「たぁああああ!!」

間合いを一気に詰め、右から袈裟懸けに振るうが、その一瞬後には、高杉が逆から打ち込む。数度打ち合い、鍔迫り合いに入ると、銀時は片手ですばやく高杉の手首を掴む。竹刀を持つ手を放そうとする意図を察した晋助は、させるものかと、手首を捕まれたまま体重をかけて、逆に銀時の無防備になった胴へめがけて振り落とす。

銀時は強引な勝負を避けて、あっさりと掴んでいた手を放すと、竹刀を交わし、晋助とすれ違うように間合いを計る。二歩半。次に動くには充分と思っていたが、晋助は銀時の狙いを読んでいた。銀時の着地のときには、すでに左足を軸に身体を捻り終え、一気の間合いを詰める。銀時は、下段からの切り上げを寸前で交わすが、晋助がそのまま振り落とされればかわせない。
重心が下がりすぎていて、体勢が悪い。しかし落ちてくる竹刀を銀時は何とか受け止めた。腕の筋が戦慄くのを感じる。だが晋助もまたこの機を逃すかと、体重ごと力を込める。一方銀時は負けてなるものかと、腕力にものを言わせて、強引に晋助を何とか弾いた。

「ちっ!!」

晋助の舌打ちして、一旦距離をとる。銀時の息が上がる。一度だけ深く息を吸い、今度は銀時が切り込んだ。何度も切り結ぶが、打ち合う二人はまるで鏡のように、一本が入らない。しかし一瞬でも隙を見せれば相手に取られる。そう思えば攻める腕は無理にでも上がる。白熱した試合に、周囲は歓声を送った。
次に動いたのも晋助だった。徐々に打ち込む早さを上げていく晋助に、銀時が少しずつ押され始めたのだ。境界に追い込まれた時、周囲は勝敗が決まると思った瞬間。晋助もまた一本を狙い動こうとした。
だがその一瞬、晋助の動きが遅れ、それを見逃さなかった銀時は竹刀を晋助へと投げた。迫ってきた竹刀を咄嗟に竹刀で叩き落とした晋助に出来た隙。それを、銀時が見逃すわけもない。

「しまっ・・!!」

銀時は、晋助の懐に入り込み、押し倒した。その拍子に晋助は、竹刀を落した。そして晋助に馬乗りになった銀時の手には、竹刀があった。

「終いだ!!」

銀時の竹刀が、晋助の眉間めがけて落ちようとした。その時だった。


「一本!!そこまで!!」

小太郎の声ではなかった。銀時と晋助、そして周囲にいた子供らも一斉に、声の方へと見る。その戸口には、松陽が静かに立っていた。静かに佇む松陽を見て、その場にいた誰もが思った。拙いと。
松陽は基本的に、刀を使った私闘を禁じている。やるならば拳でするようにと常から言っていた。それを分かっていたからこそ、晋助も松陽の目を盗んで、銀時に話を持ちかけたのだった。

「晋助、銀時。
 こちらへ来なさい。」

道場の中央まで入ってきた松陽が二人に手招きをした。銀時は晋助から退くが、それに待ったをかけかけた者がいた。

「お待ちください、先生。」

「なんだい小太郎。」

「この私闘、最初に発案したのは、俺です。」

これほど分かりやすい嘘もないだろう。この塾内でもっとも銀時を目障りに思っていたのは晋助だった。しかしその晋助の傍にいた小太郎は、むしろいつも晋助の言動を諌めるばかりだ。どう考えても言い出したのは晋助だ。銀時の予想は外れることなかった。

「ヅラ!!」

「険悪な塾内の状態に早急な結論をと、先生の教えを破りました。
 責任は俺にあります。」

「違います、先生。
 言い出したのは・・・!!」

晋助の制止でも、小太郎は言葉を撤回しようとはしなかった。そんな二人を見ていれば、銀時の口は勝手に動き出した。

「あんただろう、先生。」

銀時の言葉に誰もが瞠目し、松陽さえ驚いていた。どよめくことさえなく、シンと静まり返った。だが銀時は臆することはなかった。

「だから、この喧嘩仕組んだのはあんただろう。
 っていうか、分かってたんだろう。
 そう遠くないうちに、こいつ等が俺に喧嘩吹っかけてくることも、俺が受けることも全部あんたは気付いてたはずだ。
 それを全部知りながら、あんたは俺とこいつを事あるごとに、鉢合わせるようにした。
 こいつらは、てめぇに利用されたって訳か。」

「何・・言ってんだ。」

辛辣な銀時の言葉に、松陽は何も反応はしなかった。頷くことも否定もしない。
だが、銀時の言葉に唯一反応できたのは、晋助だけだった。晋助が怒りで戦慄く口をかみ締めると、射殺すような目で銀時を睨む。

「いい加減なことを言うな!!
 先生そんなことをされるわけがないだろう。
 大体そんなことをする理由がどこにある!!」

「だからてめぇら騙されてるって言ってんだよ、タコ!!!」

負けじと、銀時も晋助に怒鳴り返した。もうこれ以上はいらないと思った。もう充分だと。誰もが自分の大事な者を大事にしたい。それだけなのだからと。一呼吸で銀時は覚悟を決めた。そして吐き捨てるように笑ながら、言葉を続けた。

「いいか、てめぇらの言うお優しい先生は、お前に汚れ役をやらせたんだよ。
 さしずめ村の連中に頼まれたんだろう。
 山に住み着いて追い剥ぎまがいをしてる気味悪いガキをどうにかしてくれって。
 どうせ俺らのしらねぇところで、村の連中から金でも貰ってたんだろう。
 だからあんたは、俺を拾って自分の監視下に置き、問題を解決した。
 元々おかしいって思ってたんだよ。
 俺を拾ったところで、あんたに何の得もないって言うのによ。」

吐き捨てるように銀時が言った言葉。だが松陽は、それに聞き入るばかりで返事する様子もなければ、反論することさえしなかった。それが銀時の中で、不安となり、次第に焦りへと変わる。それを隠すように、矢次早に言葉を吐き続けた。

「あんたは、元々俺をココにずっと置いておくつもりなんか、はなっからなかったんだな。
 ある程度甘い汁を吸ったら俺を放り出すつもりだった。
 でもこいつ等や村の連中の手前もあって、又山に戻すわけには行かない。
 だからこいつは、俺たちを喧嘩させ、口実を作った。
 俺を追い出したのは、他の子供らに怪我を負わせかねないような奴だから・・・ってな。
 預かっている子供らに何かあっては大変だから、遠くに奉公にでも出したと言って、どっかに売り払っちまえば、一石二鳥・・・・。」

「そんな訳ない!!」

声を上げたのは晋助だった。他の子供らもそれに感化されたように続く。

「そうだ、そうだ!!
 先生がそんなことするわけがない!!」

一斉に銀時を批難し始めた。子供らにとっては、松陽を悪く言われることは、彼への信頼を馬鹿にされた気にさえなるのだろう。それは憎悪にも似た批判となって銀時に向けられていたが、それに対しては苛立つことはなかった。逆に妙な満足感さえあるほどだった。だが、それを気取られることはさせない。

「まぁ、どうでもいいわ。
 信じる信じないは、てめぇらの勝手にしろよ。
 でも、俺はあんたみたいな善人面した野郎が、一番信用ならねぇよ。」

「貴様、どこへ行く。」

「決まってるだろう、出ていくんだよ。
 こんな腹の底で何考えてるかわかんねぇような奴と、一つ屋根の下でなんて暮らしてられっか。
 じゃあな。」


そのまま銀時は、出口へと向かっていき松陽の横を通りぬけた。その時、それまで沈黙を守っていた松陽が口を開いた。

「困ったな。」

ポツリと、落すような響きで松陽が言った言葉に、銀時は反射的に足を止めた。拙い。そう思った時には、遅い。無視をして出て行くべきだったと悟る。背後で笑んでいる男の気配に、歯噛みしたい気持ちをぐっと堪えた。

「何がだよ。
 コレであんたの思惑通りじゃねぇか。
 あぁ、それとも生徒らにあんたの腹の中見られて、都合が悪いってか?」

「私の思惑など、まだ何一つ叶っていないことは、君が一番よく分かっているだろう。」

松陽の言葉に、道場の中は、水を打ったように静まり返っている。その重圧に負けまいと、銀時は知らずと肩と足に力が入った。
銀時も松陽も相手の真意は分かっている。それを明かしたい松陽と、それを阻止したい銀時の会話は、周りの子供らには、何のことだか、まるで理解できなかった。

「先生?
 どういうことでしょうか。」

「大丈夫だよ、小太郎。
 銀時は何も、本気で私を疑っているわけではないし、侮辱した訳でもない。」

「あんたの本性ばらしただけだよ。」

「そうかも知れないね。
 確かに、私は君の言うような腹黒だろう。
 だが同時に、君も又、本性を出した。
 そうだろう。」

「どういうことですか?」

晋助の問いかけに、松陽は曖昧に微笑み沈黙を返す。かわりに視線をチラリと銀時の背へとむけて語りかける。もういいか?と。しかしその問いに、どれほどの意味があるのか。肯定も否定も意味がないと分かっているくせにと、舌を打つ。どちらをとっても、もう松陽の言葉は、正しいといっているのも同じだった。

「皆、考えてみるといい。
 今のこの現状で、一番悪い扱いを受けているのは誰か。」

「それは先生です。
 先生のご好意でココにおいてもらっておきながら、あいつは・・・。」

生徒の一人が答える。その姿はまるで普段の授業の様子だった。今まで遠巻きに見ていただけの風景に、銀時は初めて交ざった。

「確かに、一見するとそう見えるかも知れない。
 だが、元々皆は銀時に対して不信を抱いていただろう。
 確かに銀時は出自は不明だし、ぶっきらぼうでけして素直な性格とは言えない。
 君たちが銀時に対して嫌悪感を持っていたのは明らかだった。
 それならば、銀時がそれを計算に入れて、先ほどのようなことを言ったとしたら・・・どうだろうね。」

松陽に導きに、真意に気付いたものは少なかった。皆が互いの顔を見合わせている。だが気付く者もいた。小太郎と晋助だ。咄嗟に顔を上げ、答えを見る。

「もし、銀時の言葉がなければ、私は晋助と小太郎を叱らなくてはならなかっただろう。
 晋助や小太郎に罰を与えなくてはいけなくなる。
 たとえば、この塾からの除籍・・・なんていうね。
 でなければ皆に示しがつかない。
 だが、銀時の言葉で状況は変わった。
 真実がどうあれ、黒幕を疑われた私は、晋助たちに重い罰は与えずらくなる。
 ここでもし晋助たちを除籍でもしたら、私への疑いは強まってしまうことだろう。
 だが、銀時の言葉を信じなかった君たちは、今までと変わりなくココに通うことだろう。
 そして、君を排除したいと想っていた彼らの願いも叶う。」

そこに居た者全てが理解した。本当に一番悪い状況に陥っているのが誰か。いや、自らその状況に飛び込んだのが誰か。

「一番苦しい立場に立ったのは君だね、銀時。
 住む場所も、食べ物も何もかもを無くす君以上の者が、ここにいるわけがない。
 彼らの願いは叶い、いなくなった君の言葉は、この一件ごと忘れられれば、私は再び疑われることさえなくなるだろう。」


そして、今この現状こそが松陽の言葉が偽りではないという何よりの証拠となった。


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