赤、青、黄色にただの光。それらがシャワーのように降り注いだ。目の前では子供らが二人はしゃぎ、それにやたらとキャサリンが絡む。その度に子供らの花火が弧を描き、不規則な煙の絵を描く。
「なかなか、風流じゃないか。」
隣に居たババァが、ニヤニヤと笑いながら言った。風流と言うのは、こういうものだったか?などと思いながらも、俺はただため息を一つ吐くだけだった。
「もう大分涼しいのに、花火とはね。
これはこれでいいもんさ。」
「夏の名残ってか?」
秋ももうすぐ始まるという時期に、いつの間に忘れ去られていた花火セットが台所から顔を出した。この夏は何かと忙しくしていたので、買ってくれと強請ったはずの神楽さえも忘れていた。
来年まで置いておけば湿気てしまう。それぐらいならばと、夕食を終えて、定休日の階下の住人も誘って花火へと公園まで赴いたわけだった。
神楽は打ち上げ花火はあっても、こういう小さなセットの花火は初めてらしく、至極嬉しそうにはしゃいだ。新八も新八で、はしゃぎ暴れる神楽を諌めながらも楽しそうだった。
一つ楽しみ、一つ終えて、一つ火を灯す。
季節外れの花火。夏の名残。
ドンドンと消費されていく花火は、残り何本だろうか。俺はそれを確認する気もなく思った。
「もうすぐ、彼岸か。」
ババァはタバコを燻らせた。そしてふわふわと揺れながら上っていく煙を、俺は少しだけ吸い込む。酩酊するわけでもないが、花火とはまた違う煙は少しだけ甘く感じた。
「だな。」
もうこれで夏も終わりだ。夏が終われば秋が来て、冬になる。もうめぐる季節を何度こうして惜しんだか分からない。目の前で、楽しそうにはしゃぐ姿は、何度見ることが出来るか。何度俺の名を呼んでくれるのか。何度俺と一緒にいてくれるのか。タイムリミットが分からない。分からないから、ただ今を惜しむ。
触れられない。キラキラと輝く滴が零れて消える。様々な色の光が、子供らを照らす。照らしては消え、また照らしては消えて、そしてそれはいつか終わる。花火は終わり、夏は終わる。終わった夏は、もう二度と触れられないところへと行き、ただ記憶と言う箱に詰め込まれて、一つ一つと増えていく。
そしていつか、その箱は増えることさえ止めて、小さな山になって終わる。
終わるのだ。このときが。それでもいい。だから今は。
「銀ちゃん。」
「銀さん。」
こちらに手を振る子供ら二人が、こちらへ来いと強請るから。
俺は重たい腰を上げて、導かれるままに歩み寄る。
今はまだ、永遠を夢見る。
銀さんが乙女だな。
練習と言うよりもただの思いつきか。
以前にも別ジャンルで書いたことがあるんですが、夏は曖昧なものばっかりだと思うんです。
夏といえば怪談ですが、その幽霊しかり、花火しかり、夏祭りしかり。
そもそも夏の暑さ事態が、一瞬って感じで、梅雨が明けて始まると、お盆を過ぎると涼しくなる。
夏ってそう言う曖昧で一瞬で触れられないものばっかりが、ぎゅっと濃縮されて出来上がってる気がして。
だから妙に切ないというか、寂しくて、特に秋に切なくなるのは、そういう夏のすぐ後だからじゃないかなって思う。
夏の一瞬ででも強烈だった曖昧さが、秋になって実感できてしまうというか。
そんなことを思うんですよね。
だから銀さんみたいな人は、夏は寂しいというか、暑さとのギャップみたいなものが辛かったらいいなぁとか。
まぁいろいろと思います。

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